大判例

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広島高等裁判所 昭和25年(う)916号 判決

刑事訴訟規則は証拠調の請求にあたつては証明すべき事実を表示することを要求し、之に違反してなされた証拠調の請求は之を却下することができる旨を規定し、証人等の申請については更に詳細に規定され、尋問事項書の提出が必要とされている。之は証拠調の適正円滑な進展を所期することからの要請であり、又当事者主義を採用した結果として新設された幾多の規定と相まつて相手方にその防禦権を十分に行使せしめようとするものである。然し乍ら右規定から直ちに一つの公訴事実を証明するために証拠調を請求した証拠を他の公訴事実の証明に供することができないと判定することは正当と考えられない。蓋し刑事訴訟法は事実の認定は証拠によるべき旨を定め所謂証拠裁判主義の原則を明らかにし、証拠能力について種々な制限を設けているが、証拠はその立証趣旨の範囲を超えて証明力がない旨の規定はない。法は当事者主義を採用したがなお職権主義をのこしている。

従つて裁判所は証拠能力を有し適法且有効な証拠調の行われた証拠に基いて事案の真相を明らかにし適正な判断をなすべきである。尤も法は当事者主義を採用し当事者をして攻撃防禦を十分に尽さしめることを期しているのであるから、立証の趣旨とあまりにかけはなれ当事者の予想しない様な証拠をもつて事実を認定することは、法の目的に反し不公正な結果を来す場合もあり得べく此の様な場合はその証拠の取調が適法且つ有効に行われていないものをとつて事実を認定したこととなり採証の法則に違反するの結果となるものと解する。原審第四回公判調書を見ると検察官は贓物罪に付被告人の知情の点を立証するにあたり、第二回起訴状記載の事実について証人林森吉、福本春男を申請し、第三回起訴状記載の事実について証人林森吉、李任俊の取調を請求している。更に第六回公判調書を見ると検察官はさきに尋問を終つた証人李任俊、林森吉、福本春男の当公廷の供述は、前の供述と実質的に異なつた供述をしているから刑事訴訟法第三二一条第一項第二号により検察官作成の右三名の供述調書の取調を請求する旨述べ、弁護人は異議はないと述べ被告人は右書類を証拠とすることに同意し、裁判官は証拠調をなす旨の決定を宣し引継き適法な証拠調がなされている。更に原判決は被告人が贓物であることを認識していた点について全事実を右三名に対する検察官作成にかかる供述調書の一部分を特に判決にその部分を記載して引用し、これ等と他の証拠とを綜合して認定している。従つて原判決は大体所論の様に第二回起訴の事実を立証するための福本春男の供述調書を第三回起訴の事実の認定に引用し、第三回起訴の事実のための李任俊の供述調書を第二回起訴の事実の認定に供しているのであるが、右供述調書の内容を見るに孰れも立証趣旨に相応する記載であつて被告人は之を証拠とするに同意しているのであるから供述調書全部について証拠能力が生じたことは疑いない。又本件のように多数の贓物罪の事実がある事件については、知情の点について証拠の共通する場合が多いのであり、記録を閲するも右供述調書の一部を証拠に引用することにより被告人の防禦権を不当に制限したものとは認められない。よつて証明力のない証拠を事実認定の資料に供したとの所論は見解の相違に基くものであつて採用することができない。

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